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2016年5月15日 (日)

マジカル・ガール

「覚えておきなさい。完全な真実というのは常に答えが同じであり、つまり2+2は4なのだ」

 女学生が、授業中にメモを回している。数学の教師はそれをとがめ、メモを見せるように命じるが、女学生が手を開くと、メモはそこになかった。
 スペイン映画でありながら、まるで日本の学校のような場面から始まる「マジカル・ガール」。予測不能のこの物語は、冒頭のメモが暗示するように、そこにないものが鍵となる。

注意:以下に結末までのネタバレを含む

●不在の主人公
 場面は変わり、少女が鏡の前で踊っている。バックにかかっている昭和歌謡のシュールさにあきれていると、やがてばったりと倒れる。アリシアは余命わずかな重病で、「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着るのが夢。父親のルイスはそれをかなえてやりたいが、失業中でお金がない。ついには強盗をしようとする。
 はじめはこの父親が主役かと思うが、また場面が変わり、バルバラの物語が始まる。この病んだ女が主役なのか。しかし彼女は、途中で半死半生となって入院する。ここからは、ダミアンの独壇場となる。この物語は主人公を決めぬまま、少女の願いをきっかけにした連鎖反応によってつながっていく。

●暗転
 随所で長めの暗転が使用され、描かれない断絶の間に何があったのか、観客に想像させる。また、場面転換の際、つながりを理解するのに時間を要する構成が意図されており、観客の想像力が強く喚起される。
 例えば、ルイスが強盗を決意し、ショーウィンドーを壊そうとしたそのとき、肩に何かがかかって気勢をそがれる。それがバルバラの吐いたものだとわかるのに10分を要する。
 また、ダミアンが登場したとき、この老人は誰だろうと思うが、彼がルイスと話し、元教師であるとわかると、冒頭の数学教師だったのかとようやく気付く。

●パズル
 ダミアンはバルバラとの間に何かがあり、それゆえに収監されていたのだが、この重要な出来事が映画の中で明かされることはない。
 出所したダミアンはパズルに興じているが、最後のピースがない。これは非常に象徴的で、この映画を観る者は、その場に欠けているものを想像で補っていかなければならない。

●トカゲの部屋
 ルイスに脅迫され、バルバラは大金を用意する必要に迫られる。バルバラは昔の知り合いを頼って仕事を探す。どうやらバルバラは元娼婦らしい。
 紹介されたのは、車椅子の大富豪だった。彼は、バルバラに服を脱ぐように命じ、彼女の傷だらけの体を見て満足げに美しいという。バルバラは仕事の前に合言葉を覚えるよう言われる。この言葉以外で行為を止めることはできず、止めなければそれだけ料金が上がる、というルールなのだった。何が行われたのかは明かされず、バルバラは疲れ果てて仕事を終える。
 再びルイスから大金を求められたとき、バルバラは大富豪の「トカゲ部屋」に入ることを申し出る。今度は合言葉がなく、無制限の仕事であることが暗示される。バルバラは半死半生となるが、中で何があったのかは明かされない。
 車椅子の大富豪は恐らく不能であり、歪んだ欲望を何らかの暴力で満たしていたのだとは予想できるが、そのおぞましさは観客の想像に任されることで増幅する。

●携帯電話
 バルバラはダミアンに助けを求め、すべてはルイスのせいだとそそのかす。ダミアンは覚悟をもってルイスと対峙するが、ルイスはバルバラとは合意の上で浮気に及んだと話す。
 ダミアンは激高し、ルイスを射殺し、証拠の録音された携帯電話を取りに、ルイスのアパートへ押し入る。そこには、父を驚かそうと魔法少女の姿で待つアリシアの姿があった。
 ダミアンはバルバラの病室に戻り、すべて片付いたと報告する。残るは証拠の携帯。しかしダミアンが手を開くと、携帯はそこになかった。二人だけに通じる冗談なのか、バルバラに振り回されたダミアンのささやかな復讐が始まるのか、ダミアンが携帯を持って自首するのか、その後のことを色々想像させたまま、欠落の物語は円環を閉じる。

映像美 7
独創性 8
余韻  10
個人的総合 7

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